番外編 ~盆踊りの「適当」が生み出す安心感~

社交ダンスやサルサ、バチャータについて考えていると、ときどき不思議なことに気付きます。

多くの人は「ダンスは習わないと踊れない」と思っています。

ところが、夏祭りの盆踊りになると話は別です。

「踊れますか?」

と聞かれて、

「いや、全然踊れません」

と答える人でも、いざ盆踊りが始まると輪の中に入って普通に踊っています。

これはなぜなのでしょうか。

実は盆踊りの参加者の多くは、踊りを正確に覚えているわけではありません。

驚くほど適当です。

右手を上げる。左手を上げる。二歩進む。回る。

そんな断片的な記憶だけで踊っています。

音楽を理解しているわけでもありません。

振付を完全に覚えているわけでもありません。

周囲を見ながら何となく合わせています。

それでも成立するのです。

最近はラテン風の盆踊りやサンバ風の盆踊り、アニメソングを使った盆踊りも増えています。

当然ながら、昔から伝わる日本の音楽ではありません。

それでも参加者は普通に踊っています。

なぜなら、実際には音楽で踊っているのではなく、「みんながやっている動き」を真似しているからです。

最初の一周は見学。

二周目で適当に参加。

三周目で何となく理解。

そして気が付くと踊っています。

この学び方は実に人間らしいと思います。

誰かに教わる前に、まず参加する。

分からないところは見て覚える。

間違えながら覚える。

昔から人間はこうやって様々なことを身につけてきたはずです。

さらに興味深いのは、盆踊りには間違いへの許容度が非常に高いことです。

手が逆でもいい。

足が逆でもいい。

一拍遅れてもいい。

途中で分からなくなってもいい。

誰も注意しません。

誰も評価しません。

なぜなら目的が「正しく踊ること」ではないからです。

目的は「一緒に踊ること」です。

ここが実はとても大切なポイントなのかもしれません。

社交ダンスやサルサ、バチャータになると、多くの人は急に緊張します。

ステップを覚えてから参加しよう。

レッスンを受けてから踊ろう。

迷惑をかけないようになってから参加しよう。

そう考えます。

しかし、盆踊りではそんなことは考えません。

踊れなくても輪に入ります。

分からなくても参加します。

そして参加しながら覚えていきます。

もしペアダンスにも、もう少し盆踊り的な考え方を持ち込めたらどうでしょうか。

完璧でなくてもいい。

少しくらい間違えてもいい。

まずは一曲楽しんでみる。

分からなければ笑ってごまかす。

そんな空気が増えれば、初心者にとってのハードルはずいぶん下がるかもしれません。

もちろんペアダンスにはリード&フォローがあり、相手がいます。

だから全く同じにはなりません。

それでも本質的には、「人と一緒に音楽を楽しむ」という点では共通しています。

実際、海外のソーシャルダンス文化を見ると、盆踊りに近い雰囲気を感じることがあります。

踊りながら覚える。

失敗しながら覚える。

まず参加する。

そして少しずつ上手くなる。

日本人は盆踊りでは昔からそれをやっています。

むしろ、日本人は本来その学び方を知っているはずなのです。

だから初心者向けのペアダンスを考えるとき、「どうやって教えるか」だけでなく、「どうやったら安心して間違えられるか」を考える価値があるのかもしれません。

正しさより参加しやすさ。

上達より楽しさ。

完璧さより安心感。

盆踊りの輪の中には、そんなヒントがたくさん隠れているように思います。