競技ダンスの現場で、起きてはいけないこと

競技ダンスにおける倫理問題と、問題が起きたときの対応について

競技ダンスや社交ダンスを始めたばかりの人は、技術だけでなく、ダンス特有の人間関係や慣習について十分な知識がない状態で環境に入ります。
そのため、悪意がなくても、あるいは「当たり前」として受け入れてしまい、結果として不安やトラブルにつながるケースがあります。

ダンス初心者にとって、特に起きやすいこと

1. 「それが普通」だと思い込んでしまう

初心者は、

  • どこまでが指導で
  • どこからが個人的な関係なのか
  • どの程度の連絡や関わりが一般的なのか

を判断する基準をまだ持っていません。
そのため、過度な連絡や干渉、強い言葉での指導であっても、
「ダンスの世界では普通なのだろう」
「自分が慣れていないだけかもしれない」
と受け止めてしまうことがあります。

2. 断り方が分からず、流されてしまう

  • 練習量や頻度を増やす提案
  • レッスンや遠征への参加
  • 個人的なやり取りや付き合い

に対して、本当は負担を感じていても、
「断ったら迷惑かもしれない」
「評価が下がるのではないか」
と不安になり、無理をして受け入れてしまうことがあります。

初心者ほど、立場が弱いと感じやすい点には注意が必要です。

3. 上下関係を必要以上に重く受け止めてしまう

競技ダンスでは、経験年数や成績による上下関係が存在します。
初心者はそれを「絶対的なもの」と捉え、

  • 意見を言ってはいけない
  • 疑問を持ってはいけない
  • 不快でも我慢すべき

と感じてしまうことがあります。

しかし、上下関係があっても、人格や尊厳が軽視されてよい理由にはなりません

4. パートナー・指導者との距離感が分からない

ダンスは身体的距離が近い活動です。
初心者は、

  • どこまでがダンスとして必要な接触か
  • どこからが個人的な踏み込みか

を判断しづらくなります。

違和感があっても、「自分が神経質なのでは」と思い込み、言葉にできないまま我慢してしまうことも少なくありません。

5. 金銭や時間の負担を正しく判断できない

  • レッスン費用の相場
  • 練習量と上達の関係
  • 自分の生活とのバランス

が分からないまま、勧められる通りに進めてしまうと、
経済的・身体的に大きな負担になることがあります。

「早く上手くなるため」という言葉だけで判断しないことが大切です。

6. 困っても相談先が分からない

初心者は、トラブルが起きたときに

  • 誰に相談してよいのか
  • 相談してもいい内容なのか

が分からず、一人で抱え込んでしまいがちです。

教室内だけでなく、ダンス外の第三者に相談する視点を持つことも重要です。

7. 覚えておいてほしいこと

ダンス初心者であることは、
「分からなくて当然」「慣れていなくて当然」な状態です。

  • 不安や違和感を覚えることは自然なこと
  • 断る権利は常に本人にある
  • 安全と尊重は、上達よりも優先される

この視点を持つことが、安心してダンスを続けるための土台になります。

競技ダンスに潜む倫理問題と向き合う

競技ダンスは、ペアで長時間・高密度に関わる競技であり、指導者・教室・紹介制度など、独特の人間関係の中で活動が行われます。
その特性ゆえに、一般社会と同様、あるいはそれ以上に倫理的な問題が生じやすい環境でもあります。

ここでは、競技ダンスの現場で問題となりやすい行為と、その判断の目安、実際に起きた場合の対応方法について整理します。

1. 問題となりやすい行為とは

ストーカー行為・過度な連絡

競技や練習に直接関係のない連絡が頻繁に続く、返信を強く求められる、行動予定を過度に詮索される、待ち伏せや尾行が行われるなどの行為は、関係性を問わず問題行為に該当します。
ストーカー規制法は複数回の法改正を経て、規制対象行為が拡大されており、現在では被害者の告訴がなくても公訴提起が可能な非親告罪となっています。これは、被害者が告訴に踏み切れない状況であっても、警察や検察が主体的に捜査・起訴できることを意味し、被害者保護の強化が図られています。強要や過度な連絡、練習量の強要といった行為も、執拗な要求や連絡が繰り返される場合、「面会や交際の要求」や「乱暴な言動」としてストーカー行為に該当し、ストーカー規制法による取り締まりの対象となる可能性があります。

「ダンスのため」「心配しているから」という理由であっても、相手が不安や恐怖、不快感を覚える時点で、正当化されるものではありません。

強要・支配的な言動

以下のような言動は、精神的な圧力や支配にあたる可能性があります。

  • 辞めることや関係を断つことをほのめかすと不利益を示唆される
  • 他の教室・パートナー・指導者との関係を制限される
  • 私生活や人間関係に介入される
  • 意見や拒否を「競技への覚悟が足りない」と否定される

競技成績や上下関係を理由に、相手の意思を軽視することは許されません。

過剰な練習量・金銭的な強要

体調不良や怪我があっても練習を止められない、高額なレッスン・遠征・衣装購入を事実上断れない状況は、自由な合意とは言えない場合があります。
競技ダンスの成功には継続的な練習が不可欠ですが、過度な練習量はダンサーの心身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。週6-30時間の集中的トレーニングは怪我や心理的ストレスを引き起こす可能性があります。

「本人が納得しているように見える」ことと、「自由意思で選択できている」ことは別です。

教室・紹介制度を通じた圧力

教室や紹介制度を背景に、

  • 被害を訴えると不利になると示唆される
  • 特定の人間関係を強要される
  • 問題を表に出さないよう求められる

といったケースも見られます。
競技ダンスの世界が狭いからこそ、こうした圧力が生まれやすい点には注意が必要です。

2. 問題かどうか判断するための視点

判断に迷った場合は、次の視点が目安になります。

  • その行為は「競技に必要不可欠」か
  • 断ったとき、不利益や恐怖が生じるか
  • 自分が不安・不快・恐怖を感じていないか
  • 第三者が見ても正当と言えるか

不快に感じた時点で、問題として扱ってよいという認識が重要です。

3. 問題が起きたときの基本対応

記録と証拠を残す

最も重要なのは、冷静に事実を残すことです。

  • メッセージ、メール、SNSの保存
  • 通話履歴や日時の記録
  • 出来事を時系列でまとめたメモ

感情的な評価ではなく、「いつ・どこで・何があったか」を淡々と残します。

明確な意思表示

可能な場合は、簡潔に意思を伝えます。

  • 「これ以上の連絡は控えてください」
  • 「競技・練習以外の関わりには応じられません」

これでも行為が続く場合、次の段階へ進む正当な理由になります。

4. 内容証明郵便という選択肢

内容証明郵便は、行為の中止を正式に求めた記録を残す手段です。
ストーカー行為やハラスメントの被害に遭った際、口頭での警告だけでは相手に真剣に受け止められない場合があります。このような状況で、自身の強い意思を伝え、法的措置に移行する前の重要な段階として活用されるのが内容証明郵便です。

  • 問題となる行為の内容
  • 中止を求める意思
  • 今後も続く場合の対応(警察相談等)

を簡潔に記載します。感情的な表現は避け、事実と要求のみを明確にすることが重要です。

内容証明郵便の利用メリット

  • 法的証拠としての価値: ストーカー行為の中止を要求したことの明確な証拠となり、将来的に警察への相談や裁判所への訴えを行う際に法的に有効な証拠として利用可能です。相手が「そんな通知は受け取っていない」と言い逃れすることを防ぎます。
  • 相手への心理的抑止効果: 内容証明郵便は、一般的に法的措置を検討しているという強い意思表示として受け取られるため、相手にストーカー行為を停止させる心理的な抑止効果が期待できます。
  • 弁護士による作成・送付: 弁護士に内容証明郵便の作成と送付を依頼することで、より専門的かつ適切な内容で警告を行うことができ、相手へのプレッシャーをさらに強めることができます。

ストーカー等の相手に対しては「同等の抑止力を持ちつつ、住所を秘匿できる方法」を選ぶことが重要です。
その際、個人名義での内容証明は、ストーカー相手には原則おすすめしません

① 警察に相談し、警告や指導をしてもらう方法
最初の相談先として現実的なのが、警察署の生活安全課です。相手からの連絡や接触が継続しており、不安や恐怖を感じていることを伝え、証拠となる記録を提示します。警察は状況を確認したうえで、相手に対して注意や警告を行うかどうかを判断します。この過程で被害者の住所が相手に伝えられることは原則ありません。警察が介入したという事実だけで行為が止まることも多く、止まらなかった場合でも、次の段階へ進むための重要な実績になります。

② 弁護士名義の警告書を送付する方法
警察の警告でも改善しない場合や、最初から強い抑止力が必要な場合には、弁護士に依頼して警告書を送付します。弁護士に「本人の住所を知られずに、行為の中止を正式に伝えたい」と相談すれば、弁護士が代理人として文書を作成し、送付します。相手に伝わるのは弁護士事務所の情報のみで、個人の住所は知られません。法的措置を視野に入れていることが明確に伝わるため、内容証明郵便以上の心理的効果があります。

③ 弁護士を代理人とした内容証明郵便を利用する方法
内容証明郵便自体の効力を活かしたい場合は、弁護士を差出人とする形で送付します。文書の内容や送付記録が公的に残る点は通常の内容証明と同じですが、差出人は弁護士となるため、本人の住所や連絡先が相手に知られることはありません。個人名義で内容証明を出すことに不安がある場合でも、安全に正式な意思表示ができます。

5. 警察への相談について

警察への相談は、「事件になってから」でなく相談段階で可能です。

  • 証拠の有無
  • 行為の継続性
  • 相手との関係性

を整理して伝えることで、相談記録が残り、抑止力になります。
競技ダンスの関係者であることは、違法行為の免責にはなりません。

6. 教室・団体への相談の注意点

教室や団体に相談する場合は、

  • 感情論ではなく事実ベースで伝える
  • 利害関係がある可能性を理解する
  • 外部相談(弁護士・相談窓口)と並行する

ことが重要です。
内部解決が常に最善とは限りません。

7. 最も大切なこと

競技ダンスは、情熱や努力が尊重される一方で、
我慢や沈黙を美徳とする文化が問題を見えにくくしてきました。

しかし、

  • 安全と尊厳は競技成績より優先される
  • 声を上げることは間違いではない
  • 個人の問題ではなく、業界全体の課題である

という視点を共有することが、健全な競技環境につながります。

補足

警察への相談

  • 緊急の場合: 命の危険や緊急を要する事態であれば、迷わず「110番」に電話してください。
  • 緊急ではないが生活の安全に関わる悩み: 最寄りの警察署、または警察相談専用電話「#9110」を利用できます。
  • 警察の対応: 被害者の安全確保を最優先に、ストーカー規制法やその他の刑罰法令を適用し、被害拡大防止に努めます。

その他の相談窓口

  • 被害者支援センター: 全国に設置。電話・面接相談、カウンセリング、病院・警察・検察庁・裁判所への付き添い、日常生活の支援などを無料で提供。
  • 法テラス(日本司法支援センター): 犯罪被害者支援ダイヤルを設け、支援機関の案内や制度に関する情報提供、弁護士費用等の援助制度案内。
  • 女性の人権ホットライン(法務省): 女性をめぐる様々な人権問題(ハラスメントやいじめ、ストーカー行為など)に関する相談。

また、以下への相談も検討してみてはいかがでしょうか?

日本スポーツ法支援研究センターの「スポーツ相談室」https://jsl-src.org/