「身体を動かす」ということ

知っているようで知らない
――歩く・姿勢・運動をめぐる7つの話

私たちは毎日、歩いています。立ったり、座ったり、階段を上ったり、荷物を持ったりもします。ところが、「身体を動かす」という、ごく身近なことについて、私たちは意外と多くを知りません。

なぜ人によって歩き方が違うのでしょうか。なぜ姿勢の良い人は若々しく見えるのでしょうか。なぜ「運動しなければ」と思っているのに、なかなか身体を動かせないのでしょうか。

身体について少し知ってみると、普段何気なく行っている動作が、違ったものに見えてきます。ここでは、身体を動かすことを考えるうえで知っておきたい7つの話を、専門的に掘り下げるのではなく、まず全体像が分かるように紹介します。

1.なぜ人は歩き方で年齢がわかるのか

街を歩いている人を見て、「なんとなく若そう」「年齢を重ねていそう」と感じることがあります。顔が見えなくても、歩き方から年齢の印象を受けることがあるのは不思議です。

私たちは歩くとき、単に足を前に出しているわけではありません。歩幅、歩く速度、姿勢、腕の振り、足の運び方、身体の揺れ、重心の移動など、身体のさまざまな部分を同時に使っています。

年齢を重ねると、筋力や関節の動き、バランス能力などが変化し、それが歩幅や歩行速度などに表れることがあります。また、年齢そのものだけでなく、普段どのくらい身体を動かしているか、どのような生活を送っているかによっても歩き方は変わります。

つまり、私たちが歩き方から感じ取っているのは、「年齢」という数字そのものではなく、その人の身体の使い方の特徴なのかもしれません。

同じ年齢でも、歩き方の印象がずいぶん違う人がいるのは、そのためです。

2.「姿勢がいい人」はなぜ若く見える?

背筋が伸びていて、視線が自然に前を向いている人を見ると、「若々しい」と感じることがあります。

一方、背中が丸くなり、頭が前に出て、動きが小さくなると、実際の年齢以上に疲れた印象を受けることがあります。

これは、姿勢が単に「背筋が伸びているかどうか」だけの問題ではないからです。

人は立っているときだけでなく、歩いたり、振り向いたり、座ったり、立ち上がったりするときにも姿勢を使っています。身体の位置や動き方が自然で滑らかであれば、全体として軽快な印象になります。

逆に、身体を動かすことに慎重になったり、動作が小さくなったりすると、それも見た目の印象に影響します。

ただし、「良い姿勢=胸を張って一直線」という単純なものでもありません。人間の身体は動くためのものなので、状況に応じて姿勢を変えられることも大切です。

「姿勢がいい」という言葉の奥には、身体をどのように支え、どのように動かしているかという問題があります。

3.歩くことと「リズム感」の意外な関係

「リズム感がない」と聞くと、音楽や楽器を思い浮かべるかもしれません。

しかし、リズムは音楽だけのものではありません。

私たちが歩くときも、右、左、右、左……と、ある程度繰り返しのある動きをしています。一定のテンポで歩けば、身体はその周期に合わせて動き続けます。

歩くという行為そのものが、周期的な身体運動なのです。

もちろん、歩行と音楽のリズムは同じものではありません。それでも、人間の身体が「一定の間隔で動く」「繰り返しのある動作を続ける」という能力を日常的に使っていることは興味深いところです。

音楽を聴きながら歩くと、知らないうちに歩く速度が音楽に影響された経験がある人もいるでしょう。

「リズム感」というと特別な能力のように思えますが、私たちの身体は、普段からさまざまなリズムの中で動いています。

4.なぜ人は階段よりエスカレーターを選んでしまうのか

目の前に階段とエスカレーターがあったら、どちらを選ぶでしょうか。

荷物がある、急いでいる、疲れているなどの理由があれば、エスカレーターを選ぶのは当然です。

しかし、特に急いでいるわけでもないのに、つい「楽なほう」を選んでしまうことがあります。

これは、人間が「できるだけ少ない労力で目的を達成したい」という傾向を持っていることとも関係しています。便利な道具や交通機関が発達することによって、以前なら自然に使っていた身体の動きを使わなくても生活できるようになりました。

エレベーター、エスカレーター、自動車、電動アシスト、自動化されたさまざまな機器。

これらは生活を便利にしてくれる一方で、日常生活の中にあった身体活動の一部を減らしてきました。

だからといって、エスカレーターを使ってはいけないという話ではありません。

重要なのは、便利になることと、身体を使う機会が減ることは別々の問題として考える必要があるということです。

5.「体を動かす習慣」はどうやって作る?

「運動したほうがいい」と分かっていても、実際に続けるのは簡単ではありません。

最初は張り切ってウォーキングを始めたものの、数週間でやめてしまった。スポーツジムに申し込んだけれど、いつの間にか行かなくなった。

こうした経験は珍しくありません。

ここで考えたいのは、「意志が弱いから続かない」と簡単に決めつけていいのか、ということです。

人間の行動は、意志だけで決まるわけではありません。時間、場所、疲労、生活リズム、一緒に行う人の有無、楽しさなど、さまざまな条件に左右されます。

そのため、身体を動かす習慣を考えるときには、「毎日必ず運動する」という大きな目標だけを見るのではなく、生活の中に無理なく身体を動かす機会をどう組み込むかという視点もあります。

散歩をする。少し遠くまで歩く。階段を使う。外に出る。好きな音楽に合わせて身体を動かす。

何を選ぶかは人それぞれです。

「運動」という言葉を聞いた瞬間に、きついトレーニングを想像する必要はありません。

6.座りっぱなしが身体に与える影響

現代の生活では、「身体を動かさない時間」が長くなりやすくなっています。

デスクワークでは長時間座り、移動中も座り、家に帰ってからもソファや椅子で過ごす。スマートフォンを見ている時間まで含めれば、身体をほとんど動かさない時間は思っている以上に長いかもしれません。

長時間座り続ける生活は、身体活動の不足だけでなく、筋肉を使う機会が減ることや、同じ姿勢を長く続けることなど、さまざまな面から考える必要があります。

ここで大切なのは、「座ることが悪い」と単純化しないことです。

座ること自体は必要な行動です。問題になるのは、座る時間が長くなり、身体を動かす時間が極端に少なくなることです。

たとえば、仕事の合間に立つ、少し歩く、姿勢を変えるなど、小さな動作を挟むだけでも、「一日中ほとんど身体を動かさない」という状態とは違ってきます。

身体にとって、「運動する時間」だけでなく「動かない時間をどう過ごすか」も重要なテーマなのです。

7.大人になると運動しなくなる理由

子どもの頃は、体育の時間があり、休み時間には走り回り、友達と遊ぶだけでも自然に身体を動かしていました。

ところが大人になると、身体を動かす機会は急に減ります。

学校を卒業すれば体育の授業はなくなります。仕事では長時間座っていることも増え、移動には電車や車を使います。休日も動画やゲーム、インターネットなど、身体をほとんど動かさずに楽しめるものがたくさんあります。

つまり、大人になると「運動しなくなった」というより、生活そのものが身体を動かさなくても成立するようになったとも考えられます。

これは、便利で豊かな生活の一つの側面でもあります。

だからこそ、「昔の人はもっと身体を動かしていた」「最近の人は運動不足だ」と単純に比較するだけではなく、現代の生活の中で身体を動かす機会がどこにあるのかを考えることが大切です。

身体は「使うもの」ではなく「感じるもの」でもある

ここまで見てくると、身体を動かすということは、単に「運動不足を解消する」という話ではないことが分かります。

歩く。立つ。座る。階段を上る。姿勢を変える。バランスを取る。一定のリズムで動く。

私たちは毎日の生活の中で、こうした動作を何度も繰り返しています。

ところが、あまりにも当たり前なので、自分の身体がどのように動いているのかを意識することは多くありません。

少し意識してみると、「右足と左足では感覚が違う」「歩く速度によって身体の感じ方が変わる」「姿勢を変えると呼吸まで変わったように感じる」など、これまで気づかなかったことが見えてくるかもしれません。

身体は、健康のために管理する対象であるだけではありません。

毎日使い、感じ、変化していく、とても身近な存在です。

「もっと運動しなければ」と考える前に、まず自分が毎日どのように身体を動かしているのかを眺めてみる。

それだけでも、身体について知らなかったことに気づくきっかけになるかもしれません。