音楽の楽譜のようにダンスの動きの記録を残す?
「ダンスの楽譜」と初心者のための超・実践的振り覚え術
「音楽には楽譜があるけれど、ダンスの動きはどうやって記録するんだろう?」と思ったことはありませんか? 実はダンスにも、動きやポーズ、タイミグを紙の上に記録する「ダンスの楽譜(運動記譜法)」が存在します。
昔からダンスは、人の動きを見て直接真似する「口伝え」で引き継がれてきました。しかし、この方法だと時代や指導者によって振付が少しずつ変わってしまったり、作品そのものが消えてしまったりする問題がありました。そこで作られたのが、身体の動きを視覚的な記号にして残す「運動記譜法(ダンス・ノテーション)」です。
今回は、世界中で使われている2大記譜法である「ラバン式」と「ベネッシュ式」の特徴を分かりやすくご紹介します。さらに、「プロの記譜法は難しそう…」というダンス初心者の方に向けて、日々のレッスンで振付を素早く・正確に覚えるための「ダンスノートの書き方」や「メモの工夫」を解説します!
世界中で使われている2大「ダンスの楽譜」
数ある運動記譜法の中で、現代のダンス界で世界標準として定着しているのが「ラバン式」と「ベネッシュ式」の2つです。
1. 動きの感情まで記録する「ラバン式記譜法」
- 作った人・時期: 1920年代にルドルフ・フォン・ラバンが考案
- 譜面の読み方: 譜面はなんと「下から上」に向かって垂直に読んでいきます。中央の縦線が体の中心(背骨)を表し、左右に右半身・左半身の動きを割り振ります。
- ここがすごい!: ポーズや位置だけでなく、動きの「質感」や「エネルギー」まで記録できるのが最大の特徴です。「突く」「滑る」「押す」「切る」といった動作のニュアンスや、内面の感情の動きまで記号化します。そのため、コンテンポラリーダンスや演劇の演技指導、ダンスセラピー(心理療法)など幅広く使われています。
2. バレエ団の公式記録「ベネッシュ式記譜法」
- 作った人・時期: 1950年代にルドルフ&ジョアン・ベネッシュ夫妻が開発
- 譜面の読み方: 音楽と同じ「5本線(五線譜)」を水平に使います。この5本線は人間の体を後ろから見たフレーム(上から頭、肩、腰、膝、足)に対応しています。
- ここがすごい!: 左から右へ読み進め、音楽の楽譜とピッタリ重ねて書き込めるため、音と動きのタイミングを合わせやすいのが特徴です。英国ロイヤル・バレエ団やパリ・オペラ座など、世界的なバレエ団で名作演目を永久保存・再演するための公式ツールとして使われています。
一目でわかる! 記譜法の比較一覧
プロが使う2大記譜法と、後ほど紹介する初心者向けの「モチーフ記譜法」の違いをまとめました。
| 項目 | ラバン式記譜法 | ベネッシュ式記譜法 | モチーフ記譜法(教育・初心者向け) |
| 読み進む方向 | 下から上へ進む(垂直3本線) | 左から右へ進む(水平5本線) | 自由・垂直(シンプルな線) |
| 得意な表現 | 感情・動きの質感(エフォート) | バレエなどの正確なポーズ・音との同期 | 動きのテーマ・大まかな概念の表現 |
| 主な用途 | 現代舞踊、演劇、動作分析 | クラシック・バレエ作品の保存 | ダンス教育、初心者、創作ワークショップ |
| 難易度 | プロの訓練が必要(非常に高い) | 専門資格に数年かかる(非常に高い) | 初心者や子どもでも理解しやすい |
なぜプロの記譜法は初心者に難しい? 動画とノートの役割
「それならプロの記譜法を勉強すれば振り覚えが良くなる?」と思うかもしれませんが、実はそう簡単ではありません。
音楽の楽譜なら「見ながら演奏する」ことができますが、ダンスは「譜面を見ながら同時に踊る」ことができません。プロのダンサーでも「一度譜面を見て記号を頭で解読し、記憶してから体を動かす」という手順を踏んでおり、初心者にとっては情報量が多すぎて頭がパンクしてしまいます。
「じゃあスマホでレッスン動画を撮れば十分?」と思うかもしれません。確かに動画はわかりやすいですが、ただ映像をぼーっと眺めているだけでは、動きの構造が頭に定着しにくいという弱点があります。
教育心理学の研究によると、人間は以下の3つを組み合わせることで最もよく学習できるとされています。
- 実際に動いてみる(体感)
- 映像やイメージを思い浮かべる(視覚)
- 言葉や記号でメモしてみる(概念化)
動画を見るだけでなく「自分の手でノートにメモする」という作業を挟むことで、頭の中が整理され、身体の動きとして素早く定着するようになるのです。
【参考】
踊りをメモして表現を広げる!
「モチーフ記載法(Motif Notation)」完全ガイド
注意) ここからの記事は、著作権などにより保護されているため、図表は、概念を説明するために自作した模式図です。よって、実際とは異なると思います。そこで、あくまでもヒントとして見ていただくようお願いします。
モチーフ記譜法の概念は Valerie Preston-Dunlop および Ann Hutchinson Guest による Language of Dance® の教育体系を参考にして教育用の模式図・概念図として作成しています。
このため、正しい理解のためには、正しく学び理解いただくか、これを参考に自分なりに独自の記載方法を編み出して、活用していたたければと思います。
ダンスを習っているときや振付を考えているとき、「今の動き、すごく良かったのに忘れてしまいそう」「動画を見返すのもいいけれど、動きのアイデアをノートにメモしておきたい」と思ったことはありませんか?
音楽に「楽譜」があるように、ダンスにも動きを紙に記録する「舞踊記譜法(ダンス・ノテーション)」という仕組みがあります。その中でも、難しい専門知識がなくても直感的に使え、子供から大人まで誰でも自由な発想で動きを記録できるのが「モチーフ記載法(モチーフライティング / Motif Notation)」です。
今回は、モチーフ記載法が生まれた歴史的な背景から、基本となる可愛いマーク(記号)の意味、ノートへの書き方ルール、振付を面白く広げるアレンジテクニック、そして様々な分野での活用例まで、ダンスに役立つ情報を余すところなく分かりやすく解説します!
1. モチーフ記載法とは?歴史と生まれた理由
動きを記録する「楽譜」の歴史と限界
ダンスや身振り手振りは、その瞬間ごとに消えてしまう一回性の表現です。これを未来へ残したり、遠くの人へ伝えるために、古くから多様な記録方法が試みられてきました。
20世紀初頭の1928年、ルドルフ・ラバン(Rudolf Laban)によって「ラバノーテーション(Labanotation / Kinetography Laban)」と呼ばれる本格的なダンス記譜法が考案されました。ラバノーテーションは、関節の角度、手足の位置、空間の方向、身体の高さ(レベル)、動きの持続時間などを極めて精密に書き残せる「完全記譜法(Standard Dance Notation)」です。名作バレエやモダンダンスの復元、作品の著作権保護、アーカイブの保存には欠かせない画期的なシステムでした。
しかし、ラバノーテーションには「あまりに精密で複雑すぎる」という側面がありました。長年の専門トレーニングが必要なうえ、記譜された通りに寸分たがわず身体を動かすこと(規範的・指示的=Prescriptive)を求めるため、初心者がダンスを習う場面や、振付家が最初のアイデアをノートに落とし込む自由なスケッチの場では、動きを縛りすぎてしまう課題があったのです。
「モチーフ記載法」の誕生:自由でオープンなダンスメモ
この課題を解決するために作られたのが、簡略記譜法・運動主題記譜法とも呼ばれる「モチーフ記載法(Motif Notation / Motif Writing)」です。
1960年代にヴァレリー・プレストン=ダンロップ(Valerie Preston-Dunlop)によって整理され、その後アン・ハッチンソン・ゲスト(Ann Hutchinson Guest)博士が主宰する「言語・オブ・ダンス®(Language of Dance®: LOD)」アプローチとして広く体系化されました。
モチーフ記載法は、「右肘を45度の角度で上げて…」といった細かな強制をしません。その代わりに、動きの核となる「テーマ(動詞)」=「ジャンプする」「くるっと回る」「ピタッと止まる」といったモチーフだけをシンプルな象徴記号で記述します。
最大の魅力は、動きに対して「記述的(Descriptive)かつ開放的(Open-ended)」である点です。提示されたテーマをもとに「どの身体部位を使い、どの方向へ、どのような表情で動かすか」は踊る人の自由な解釈や即興に委ねられます。これにより、ダンスの練習やレッスンで自分自身の身体感覚を客観的に観察しながら、表現力をのびのびと育むことができるようになりました。
| 比較軸 | 本格的なラバノーテーション(Labanotation) | モチーフ記載法(Motif Notation) |
| システムの性格 | 完全記譜法(運動のすべての細部を精密記録) | 簡略記譜法・運動主題記譜法(動きのテーマや核だけを抽出) |
| 再現と解釈のスタイル | 規範的・指示的(書かれた通りに正確に再生する) | 記述的・開放的(踊る人の自由な解釈や即興を尊重する) |
| 記録する対象 | 関節の角度・厳密な空間軌跡・秒単位の時間 | 動きのテーマ(跳ぶ、回る、移動する、曲げる、伸ばす等) |
| 習得の難易度 | 専門的な学習と長期間の訓練が必要 | 幼児やダンス初心者でも直感的に理解・記述可能 |
| 主な活躍シーン | 完成した名作の永久保存・文化財保護・正確な復元 | 練習のアイデアメモ・振付スケッチ・学校教育・セラピー |
2. 動きの五十音!「運動のアルファベット(Movement Alphabet®)」記号一覧
モチーフ記載法の基礎となるのは、アン・ハッチンソン・ゲスト博士が整理した「運動のアルファベット(Movement Alphabet®)」と呼ばれる抽象化シンボル群です。言葉における「あいうえお」や「ABC」のように、人間が行うあらゆる動作を解体したときに現れる「最も基本的な運動のビルディング・ブロック(構成要素)」を表しています。
「ランゲージ・オブ・ダンス®(LOD)」では、身体の可能性や空間へのアプローチ、体重の預け方、力学(ダイナミクス)などに基づいてカテゴリ分類されています。どれも見た目で直感的に意味がわかる象徴的なデザインです。
レッスンや練習ノートでよく使われる代表的な基本記号をまとめました。
| カテゴリ | 記号名称 | 視覚的形状の特徴 | 象徴する動きの意味と解釈 |
| 基本状態 | Any Action(動作開始) | アスタリスク(*)のような放射状のマーク | 静止状態を破り、身体のどこかで何かしらの動作をスタートさせる。 |
| 基本状態 | Stillness(静止) | 円の中にポツンと点を配置した形状(または保持標識「O」) | 運動を一時停止し、その場の姿勢や意識をそっと留める。 |
| 関節・解剖学 | Any Flexion(屈曲) | 直角に折り曲がった「く」の字型のライン | 関節を曲げる、膝や肘を折りたたむ、身体を丸めて小さくなる。 |
| 関節・解剖学 | Any Extension(伸張) | 外側に向かってパッと開くV字型(または直線) | 関節を伸ばす、手足を遠くへ差し出す、身体をのびのび広げる。 |
| 関節・解剖学 | Any Rotation(旋回・捻転) | うずまき状、または円環状の矢印ライン | 体幹や手足を軸を中心にねじる、またはその場でくるっと回転する。 |
| 空間・移動 | Any Traveling(移動) | なみなみとした波状ライン、または軌跡の矢印 | 空間の中を歩く・走る・滑るなどして、場所を移動していく。 |
| 空間・移動 | Destination(目的地) | 二重枠やターゲット(標的)のようなマーク | 空間の特定のゴール地点やターゲットに向かって進んでいく。 |
| 体重・空中 | Support(支持) | ひし形(ダイヤ型)の基本ブロック | 床や足の裏、あるいは壁や道具に体重をあずけて支えている状態。 |
| 体重・空中 | A Spring(跳躍) | 下が開いたアーチ型(逆U字型)の曲線 | 床を力強く蹴り、両足または片足が完全にあおぞらへ浮遊する(ジャンプ)。 |
| 重心・力学 | Balance(平衡) | ひし形の中央を垂直な軸線が貫いている形 | 不安定な姿勢でも自分の重心線をしっかりコントロールして安定を保つ。 |
| 重心・力学 | Falling(転倒) | 直立軸から大きく斜めに傾いたライン | バランスをあえて崩し、重力に身をまかせて床方向へ倒れ込む。 |
| 方向・アプローチ | Motion Toward / Away(接近 / 離脱) | 対象に向かう矢印 / 離れる矢印 | 特定の人や物体(椅子など)に向かって近づく、または離れていく。 |
| 結果・関係 | Still Shape / Relating(姿勢の形 / 関係性) | 枠線や人間同士が重なるマーク | 動き終わりの決めの形(ポーズ)、あるいはパートナーとの対話や関係性。 |

3. ノートへの書き方とルール:譜表(Staff)の仕組み
単品の記号(運動のアルファベット)が「単語」だとすれば、それらを時間や順番に沿って組み立てていくノートの枠組みが「譜表(Staff / スタッフ)」や「スコア(Score)」です。
譜表の書き方ルールを知っておくと、メモを書くのも読むのもぐっとスムーズになります。
最大のルール:下から上に向かって読み進める!
一般的な音楽の楽譜は「左から右」へ横に進みますが、モチーフ記載法では「下から上」に向かって縦に進みます。これは、人間が大地に立ち、前へ進んでいく身体の視覚的な感覚に一致させているためです。ノートの一番下が動きの「スタート」、上が「ゴール」となります。
また、必要に応じて横線を引いて音楽の「拍(カウント)」や「小節」とぴったり同期させることができます。
| 譜表の構成パーツ | 見た目とグラフィック的特徴 | 読解および記譜のルール |
| 時間軸(進行方向) | ノートを縦に貫く垂直なライン | 下から上に向かって時間と動きが進んでいきます。 |
| 開始位置線(スタート線) | 一番下に描かれた二重の水平線 | 動き始める前の姿勢(スタートポーズ)を書き込むスペースです。 |
| 終了線(ゴール線) | 一番上に描かれた二重の水平線 | 一連のダンスのシークエンスやフレーズの終わりを示します。 |
| 正中線(センターライン) | 譜表の中央を縦に走る基準線 | 人間の身体の中心軸(正中線)を表しています。 |
| 左右の列(エリア) | 正中線の左側:左半身 / 正中線の右側:右半身 | 左手や左脚の動作は左側に、右手や右脚の動作は右側に配置します。 |
| 小節線と拍の目盛り | 譜表を横切る水平線や小さい目盛り(Tick Marks) | 音楽のカウント(1, 2, 3, 4…)や拍子(3/4拍子、4/4拍子等)の区切りです。 |
| 記号の縦の長さ | 記号自体の縦方向の伸び縮み | 縦に長い記号は「じっくり時間をかける動き」、短い記号は「瞬発的な動き」を表します。 |
| 保持標識(Hold Sign) | 「O」の記号 | ポーズをキープしたまま、または体重をかけたまま一時停止することを示します。 |
| フロアプラン(位置図) | 譜表の横に添える小さな部屋や舞台の平面図 | 舞台やスタジオのどこからどこへ移動したかという全体コースを示します。 |

スコアを読み解く(読む)ときのプロのコツ
舞踊研究者のシャーロット・ワイル(Charlotte Wile)氏は、モチーフスコアを読む際のステップとして以下を推奨しています。
- 全体をサッとスキャンする:繰り返されているテーマや、際立った移動パターンを大まかに捉える。
- 言葉に出してみる:「ジャンプして、回って、止まる!」と声に出してイメージを膨らませる。
- 実際に身体で動いてみる:記号のイメージを自分の身体に翻案して表現してみる。
4. 振付・ダンス学習での実践:
1つのメモから動きを無限に広げる4つの魔法
ダンスにおいて「モチーフ」とは動きの最小単位のアイデアであり、これがつながっていくと「フレーズ(意味のある文章)」や「メロディ(まとまったダンス)」になります。
ダンスレッスンや作品制作では、気に入った1つのモチーフを提示し、それを構成要素に沿って変化させていく手法「モチーフと展開(Motif and Development)」が非常によく使われます。
ルドルフ・ラバンの運動解析理論(Effort-Shape Theory)に基づく「ダンスの4大要素」を応用すると、たった1つのメモから無限のバリエーションを作ることができます。
1. アクション(Action)を変える
動きを行う「身体のパーツ」を置き換えたり、別の動作を足したりします。
- 例:手でやっていた「旋回」を「頭」や「腰」でやってみる。
- 例:「ひっくり返る」モチーフに「立ち上がる」という別の動きをプラスする。
2. ダイナミクス / エフォート(Dynamics / Effort)を変える
動きのエネルギー、スピード、強弱、空間への集中度を切り替えます。
- 例:パッと瞬時に回っていた動きを、10秒くらいかけて超スローモーションで重々しく絞り上げるように変化させる。
3. 空間(Space)を変える
動きを行う「高さ(レベル)」や「方向」「移動ルート」を入れ替えます。
- 例:立ってやっていた動きを、床に這いつくばる「低層(Low level)」で行う、あるいは高くジャンプする「高層(High level)」で行う。
- 例:まっすぐ進んでいたのを、ジグザグや斜めのルートに変更する。
4. 関係性(Relationship)を変える
踊る相手(パートナー)、小道具(椅子など)、音楽との関わり方を変えます。
- 例:パートナーの動きを「鏡のように真似する(ミラーリング)」「あとに続いて追いかける(追従)」「逆の動きをする(反転)」。
- 例:椅子を友達に見立てて話しかけるように関わる。
| アレンジの次元 | 操作する構成要素 | 具体的なアレンジ例(「床でひっくり返る」モチーフの場合) |
| アクションの変形 | 身体部位・追加・静止 | ひっくり返ったあとに「素早く立ち上がる」動作を追加する、あるいは途中で急停止する。 |
| ダイナミクスの操作 | 時間・重さ・空間の質 | 全身の力を抜き、波にたゆたうように「ゆっくり、大きく」ひっくり返る。 |
| 空間の再構築 | レベル(高さ)・方向・経路 | スタジオの左手前から右奥に向かって「斜めのルート」へ移動しながらひっくり返る。 |
| 関係性の変容 | 他者・小道具・音楽 | パートナーと手を取り合い、お互いの重さを支え合いながら交互にひっくり返る。 |

5. モチーフ記載法の幅広い活用事例とこれからの展望
モチーフ記載法は、ダンス教室や振付家のためだけのものにとどまらず、現在では身体運動に関わる非常に幅広い分野で活用されています。
① 学校教育・ダンスリテラシー(身体知性)の育成
従来のダンス指導は「先生の動きを見て必死に模倣する」というスタイルが主流でした。モチーフ記載法を取り入れることで、生徒は「自分がどんな動きをしているのか」を概念として客観的に理解し(思考)、自分の言葉や記号で表現する(ダンスリテラシー)能力が育ちます。幼児教育(4〜5歳児)から直感的に導入できる教育ツールとしても高く評価されています。
② 振付の再現と動画からの学習
ビデオ映像から踊りを解釈して記譜し、身体で体現し直すといった「知性と身体の循環プロセス」を深める研究にも用いられています。
③ ダンス・セラピー(心理療法)
ダンスセラピストがクライアントの体の使い方の癖、感情表現のパターン、動きの意図を観察し、客観的に記録・分析する際の便利なツールとなっています。
④ スポーツ・アスレチック・動作解析
スポーツトレーナーやアスリートが、効率的で美しいフォームや怪我を防ぐ身体の使い方(ムーブメントパターン)を記録・指導する際にも応用されています。
⑤ 人類学・民俗舞踊の比較研究
世界各地に伝わる伝統舞踊や民俗舞踊(フォークダンス)のステップや共通するモチーフを分析し、文化的な特徴を比較・研究するための共通言語として活躍しています。
初心者でもすぐできる! 爆速ダンスノート作成術
ここからは、特別な資格や難しい記号を知らなくても今日から使える、実践的な「ダンスノート」の書き方を紹介します。
1. 「モチーフ記譜法」の発想を借りよう
ラバン式をもっとシンプルにして教育用に作られた「モチーフ記譜法」というものがあります。これは「右脚の角度は何度」といった細かい指定ではなく、「ジャンプする」「回転する」「一瞬止まる」といった動きの「テーマ(核心)」だけをサッとメモする方法です。 初心者の方も、「完璧に細部を書こうとせず、まず主要な動作のテーマをメモする」という意識を持つのがコツです。
2. 「棒人間+かんたん記号」でスケッチ
絵が苦手でも大丈夫!棒人間とシンプルな記号で十分伝わります。
- 棒人間を描く: 頭と胴体を固定し、四肢の曲げ伸ばしを線で描きます。
- 手のひらの向き: 上向きなら「△」、下向きなら「▽」、自分側なら「平自分」、正面なら「平前」と書き添えます。
- 服や道具を掴む動き: 手先を黒く塗りつぶします。
- 視点を統一する: ノートに書く時は「鏡に向かった時の視点(上が前・鏡)」で統一しておくと、復習するときに混乱しません。
3. ノートの基本レイアウト(4つの要素)
ノートは1ページを横に分け、以下の4要素を横並びでセットにして書きましょう。
- カウント: 「1・2」「3・4」などのリズム
- 棒人間: ポーズや姿勢のスケッチ
- 言葉の解説: 「右足を一歩踏み出して胸を開く」など
- ニュアンス・感覚: 「シュッと素早く」「ずっしり重く」などの感覚メモ
4. 記憶を定着させる「3ステップ習慣」
振付を忘れないために、以下の流れを習慣化してみましょう。
- レッスン直後(1分): 忘れないうちに小型メモ帳に「印象的だった動き」「つまずいた部分」を箇条書きでサッとメモ。
- 帰宅後・自主練: 撮影した動画を確認しながら、ダンスノートに棒人間やカウントを整理して清書する。
- 次回レッスン直前: ノートを開いて頭の中でイメージリハーサルを行い、軽く身体を動かしてからレッスンに臨む。

おわりに
プロが使うベネッシュ式やラバン式のようなダンス記譜法は、舞踊という消えてしまいやすい芸術を何世紀にもわたって保存するための素晴らしい技術です。
一方で、日常のレッスンでダンス初心者が振り付けを素早く覚えるには、「動画で確認する」ことと「自分の手でダンスノートに書き出す」ことを組み合わせるのが一番の近道です。棒人間や自分なりの記号を使ってノートに整理する作業は、頭の中のイメージを言葉や形にし、再び自らの身体へと染み込ませる強力なトレーニングになります。
モチーフ記載法(Motif Notation)は、決して「ダンスを型にはめるための難しい勉強」ではありません。むしろ、頭の中にあるイメージや踊ったときの感動をサッとノートにスケッチし、自分らしい表現力を広げていくための「自由なキャンバス」です。
基本のアルファベット記号をいくつか覚えるだけでも、いつものダンスレッスンや練習がぐっと面白くなります。ぜひノートとペンを持って、自分だけの「ダンスメモ」を始めてみてくださいね!