ダンスを始めようと思うと、多くの人はこう考えます。
「まずステップを全部覚えなければ踊れない。」
実は、この考え方こそが、初心者がダンスを難しく感じてしまう大きな原因なのです。
ダンスが上手な人ほど、あまり動かない
「ダンスが上手な人は、たくさん動く。」
そう思っていませんか。
実際は、その逆です。
上手な人ほど、自分勝手には動きません。
「えっ、うそでしょ?」
そう思うかもしれません。
その理由は、ペアダンスにはリードとフォローという役割があるからです。
ダンスはエスコートと同じ
少し想像してみてください。
レストランで男性が女性をエスコートするとします。
椅子まで案内し、女性が安心して座れるように、そっと椅子を引いてあげます。
女性は、その動きに合わせて自然に座ります。
相手が椅子を引いてくれているのに、突然違う方向へ歩いて行く人はいませんよね。
ペアダンスも、基本的にはこれと同じ考え方です。
男性は、女性が安心して動けるように導きます。
女性は、その導きを感じ取り、自然についていきます。
「これから動きますよ」という合図
実際のダンスでは、いきなり相手を動かすわけではありません。
まず「これから動きますよ」という小さな予備動作を行います。
これをプレパレーション(Preparation:予備動作)と呼びます。
この予備動作によって、
「何か始まるな。」
と女性は自然に感じます。
そのあと男性が進む方向やタイミングをリードすると、女性はその情報を受け取り、自然に体が動きます。
つまり、
「右へ行く」
「前へ進む」
「回転する」
という情報を、言葉ではなく体で伝え合っているのです。
女性はステップを知らなくても踊れる
ここで、多くの初心者が驚きます。
「女性はステップを全部覚えないと踊れない。」
そう思っている人は少なくありません。
しかし、最初からすべてのステップを知っている必要はありません。
男性が丁寧にリードをしてくれれば、女性はそのリードを感じ取り、音楽に合わせて右足、左足と自然に足を運ぶだけでも踊ることができます。
もちろん、上達していくためにはステップを覚えることも大切です。
しかし、最初に必要なのはステップの暗記ではありません。
相手のリードを感じ、その動きに素直に応えることです。
そして、実はこれは女性だけの話ではありません。
男性もまた、ステップを覚えただけでは踊れないのです。
本当にそんなことで踊れるの?
「本当に、そんなことで踊れるの?」そう思いますよね。
実は、男性がやっていることは、単に決められた足順を踏むことではありません。
男性は、女性が今どちらの足に体重を乗せているのか、次はどちらの足なら自然に動けるのかを感じ取りながらリードしています。
人は、体重が乗っている足をすぐに動かすことはできません。
反対側の足だからこそ、自然に一歩を踏み出すことができます。
男性は、その体の仕組みを理解し、経験を重ねながら、「このようにリードすれば、女性は安心して動ける」という技術を身に付けていきます。
つまり、男性もステップを覚えているだけでは踊れません。
相手の状態を感じ取り、それに合わせてリードすることこそが、本当の技術なのです。
さらに、そのためには男性自身が正しく体重移動できなければなりません。
自分の体重がどこにあるのか分からなければ、相手の体重の変化も感じ取れません。
自分の重心が安定しているからこそ、相手の重心の移動も伝わってきます。
リードとは腕で引っ張ることではありません。
自分の体重移動を通して相手に動きを伝え、相手の体重移動を感じ取りながら会話をする技術なのです。
実は初心者のほうが踊りやすいこともある
不思議に思われるかもしれませんが、経験者の男性からは、
「初心者の女性のほうが踊りやすい。」
という声を聞くことがあります。
もちろん、初心者のほうが上手という意味ではありません。
初心者は、覚えたステップに縛られていないため、男性のリードを素直に受け取れることが多いからです。
一方で、ステップだけを頼りに踊ろうとすると、
・リードより先に動いてしまう。
・自分が覚えている足順を優先してしまう。
・音楽以上に足を動かしてしまう。
その結果、お互いの動きが合わなくなることがあります。
つまり、ステップを知っていることが問題なのではなく、「ステップどおりに動くこと」を優先してしまうと、ペアダンスの本来のコミュニケーションが失われてしまうのです。
※バチャータはステップは本当にたくさんあります。女性が想像する通りの動きになる事は稀です。
だから、リードを予測して動くことが不可能なので、リードに従うのです。
実は男性のほうが大変
一方で、男性は決して楽ではありません。
女性が安心して動けるよう、
・どちらの足に立っているのか。
・次にどちらの足なら自然に動けるのか。
・どのタイミングなら無理なく動けるのか。
それらを常に感じ取りながらリードしています。
さらに、自分自身も正しい姿勢と体重移動を保ち続けなければなりません。
だから男性が学ぶべきなのは、ステップそのものではなく、相手に安心感を与えられるリードなのです。
最初から上手にできる人はいません。
誰もが失敗を繰り返しながら、その感覚を少しずつ身に付けていきます。
女性の一言が男性を育てる
もし、
「この人、まだ慣れていないな。」
そう感じたら、ぜひ優しく接してあげてください。
笑顔で、
「大丈夫ですよ。」
「ありがとうございました。」
そんな一言だけでも、男性は本当に励まされます。
失敗しても笑顔で応えてもらえると、
「また頑張ろう。」
という気持ちになります。
実は、男性は女性から安心してフォローしてもらうことで、少しずつリードを覚えていきます。
女性の温かい一言や笑顔が、未来の良いリーダーを育てているのです。
最初は簡単なステップだけで十分
初心者は、難しいステップをたくさん覚える必要はありません。
最初は、自信を持ってできる簡単なステップだけで十分です。
大切なのは、そのステップを覚えることではなく、音楽を感じ、相手を感じ、自分の体重移動を感じることです。
男性は、相手が安心して動けるようにリードを学びます。
女性は、そのリードを信じて自然に応えます。
こうしたやり取りができるようになったとき、初めてペアダンスになります。
ダンスが上手になるとは、たくさんのステップを知ることではありません。
相手と呼吸を合わせ、体重移動を通して会話ができるようになることです。
ステップは、そのための道具の一つにすぎません。
だから、「ステップを覚えれば踊れる」というのは、大きな誤解なのです。
補足:もちろん、ステップも大切です
ここまで読むと、
「じゃあ、ステップは覚えなくてもいいの?」
と思われるかもしれません。
この記事は、これからペアダンスを始める初心者に向けて書いています。
初心者が最初に知ってほしいのは、「ステップを全部暗記しなければ踊れない」という思い込みは、実は大きな誤解だということです。
ペアダンスでは、男性はリードを学び、女性はそのリードを感じて応えることが基本になります。
そのため、最初のうちは、簡単なステップだけでも十分にダンスを楽しむことができます。
もちろん、長く続けていけば、より多くのステップやバリエーションを覚えることは大きな力になります。
また、男性はより繊細なリードを、女性はより豊かなフォローを身に付けていくことで、表現できる世界も広がっていきます。
つまり、ステップが不要という意味ではありません。
ステップは、ペアダンスをより豊かに楽しむための「言葉」や「表現」のようなものです。
しかし、その言葉を相手に伝えるためには、リードとフォローというコミュニケーションが欠かせません。
どれだけ多くの言葉を知っていても、相手と会話ができなければ伝わらないのと同じです。
だからこそ、初心者のうちは「ステップをたくさん覚えること」よりも、「相手を感じること」を大切にしてほしいのです。
その土台ができれば、新しいステップを覚えたときも、単なる足順ではなく、「相手と踊るための動き」として自然に身に付いていくでしょう。
現在、ダンス教室では、ステップから習うことが多いため、「ステップを覚えることがダンス」だと思ってしまいがちです。
しかし、それはあくまでも学びやすくするための入口です。
ペアダンスの本質は、ステップそのものではなく、リードとフォローを通して相手とコミュニケーションを取ることにあります。