社交ダンスやサルサ、ウエストコーストスウィングなどについて調べていると、海外には、日本とは少し違った視点からダンスを扱っているサイトがあることに気づきます。
もちろん、ステップや技術を教えるサイトはたくさんあります。しかし、それだけではありません。「リードとフォローとは、そもそも何なのか」「二人で踊るとは、どういうことなのか」「なぜソーシャルダンスでは知らない人とも踊るのか」といった、ダンスそのものを考えるサイトもあります。
今回は、海外のペアダンスやソーシャルダンスに関するサイトの中から、特に興味深いものを紹介します。単なる「おすすめサイト」のランキングではありません。それぞれが、ダンスのどんなところに注目しているのかを見てみましょう。
Dance Spree――リードとフォローを「会話」として考える
Dance Spreeは、ペアダンスの技術だけでなく、リードとフォロー、コネクション、ソーシャルダンスの文化などを扱っているサイトです。
例えば「Leading and Following in Partner Dance」という記事では、リードを「指示する人」、フォローを「言われた通りに動く人」と考えるのは適切ではない、と説明しています。リードが提案し、フォローが解釈し、その反応にリードがまた応答する。つまり、一方から他方へ命令を送るのではなく、二人の間で情報が行き来するものとしてペアダンスを捉えています。
さらに興味深いのが、ペアダンスのコネクションを物理学の観点から考えている記事です。二人の身体は接点を通して互いに影響し合っていて、リードからフォローへ一方的に情報が伝わるわけではない。フォローの身体の状態やバランスも、コネクションを通してリード側に伝わるという考え方です。
「リードする」という言葉だけを見ると、「相手を動かす」というイメージになりがちです。しかし、二人の身体が互いに情報をやり取りしていると考えると、ペアダンスの見え方は少し変わってきます。
Stanford University――「フォロー」は本当に「ついていく」ことなのか?
Stanford Dance Division「Great Partnering」
Stanford Dance Divisionの「Great Partnering」は、大学のサイトに掲載されているソーシャルダンスの教材です。
ここで面白いのは、リードとフォローという言葉そのものについて考えていることです。フォローという言葉からは、「後についていく」「相手に従う」という受動的なイメージが生まれます。しかし実際のフォローは、相手から送られてきた情報を解釈し、自分の身体で応答する役割です。
相手が意図していなかった動きをしたとしても、それを単純に「間違い」と決めつけず、その動きに合わせて踊りを続けることも、良いリードの一部だと説明しています。
リードについても、「相手を動かす」というより「相手が動けるように情報を伝える」という考え方が示されています。そして面白いのは、リードする側にも、相手の動きを感じ取る「フォローする能力」が必要だという点です。自分が提案した後、相手が実際にどう動いているのかを感じ取り、その状態に合わせて次の動きを選ぶわけです。
つまり、リードとフォローは完全に一方通行の役割ではありません。リードする人も相手を感じながら踊り、フォローする人も自分で判断しながら踊っています。
Stanfordには「失敗」を考える記事もある
Stanford Dance Divisionには、リード・フォローだけでなく、ソーシャルダンスについて考えた記事が多数あります。
その一つが「Oops! Sorry! Thoughts on Mistakes in Social Dance」です。ここでは、踊っている途中に起きる失敗について考えています。
興味深いのは、ソーシャルダンスでは「一度も間違えないこと」よりも、「間違いが起きた後にどう戻るか」が重要だという考え方です。
これは、初心者にとっても大きな意味があります。踊っている途中で足を間違えたり、相手とタイミングがずれたりすることは珍しくありません。そこで踊りを完全に止めてしまうのではなく、二人で状況を受け入れて、また音楽の流れに戻っていく。そこにもソーシャルダンスの技術があります。
Stanford Dance Division「Oops! Sorry!」
Learn-to-Dance.net――「ペアダンス」という分野そのものを考える
Learn-to-Dance.net「Couple and Partner Dancing」
Learn-to-Dance.netでは、ペアダンスを一つのまとまった分野として扱っています。
リード、フォロー、バランス、フレーム、コネクション、タイミング、音楽性、相手とのコミュニケーションなど、個別のステップよりも「二人で踊るために必要なこと」を整理しています。
特に「Following Is Active, Not Passive」という考え方は分かりやすいものです。フォローは相手に身体を動かしてもらうだけではありません。自分のバランスを保ち、タイミングを取り、姿勢を維持し、音楽を感じながら、相手から送られてくる情報に応答します。つまり、フォローにも独自の技術があるということです。
Learn-to-Dance.net「How to Follow in Partner Dance」
リードについても同じで、「相手を動かす」のではなく、「相手が何をすればよいのか分かるような情報を適切なタイミングで伝える」こととして説明されています。
Learn-to-Dance.net「How to Lead in Partner Dance」
「リードする人」と「ついていく人」ではなく、二人がそれぞれ異なる役割を担っている、と考えるわけです。
PartnerDancing.com――いろいろなダンスに共通するものを探す
PartnerDancing.comは、さらに違った方向からペアダンスを考えています。
サルサ、タンゴ、スウィング、ワルツ、フォークダンスなど、ダンスの種類が変わっても、二人の身体がコミュニケーションする基本には共通するものがあるのではないか、という考え方です。
そのために、このサイトでは「ABCDs」という独自の体系を紹介しています。Attitude、Balance、Connection、Directionという4つの要素から、二人のコミュニケーションを考えるものです。
これは、このサイトが提案している独自の方法ですから、すべてのダンス指導者が採用しているわけではありません。それでも、「ダンスが変われば、二人のコミュニケーションの基本も全部違うのだろうか」と考えるきっかけになります。
サルサとタンゴとスウィングは、音楽も動きも大きく違います。それでも、「相手に情報を伝える」「相手から情報を受け取る」「二人のバランスを保つ」といった部分には共通点があります。
ダンスの種類ではなく、「二人で踊る」という共通部分から考えているところが面白いサイトです。
DancePartner.com――ダンスを「人と出会う活動」として見る
DancePartner.comは、これまでのサイトとはかなり違います。
ダンスの理論を解説するサイトではなく、ダンスパートナーを探すための大きなコミュニティです。
Ballroom、Swing、Salsa、Bachata、Argentine Tango、West Coast Swingなど、さまざまなダンスが扱われています。サイトでは73種類のダンスカテゴリーを掲載しています。
また、パートナーを探す目的もSocial、Training、Performance、Competitionなどに分かれています。
ここから見えてくるのは、ダンスが単に「技術を身につけるもの」ではなく、「人と会う」「人と踊る」という活動として成立していることです。
動画を見て一人でステップを覚えることと、実際に誰かと踊ることは同じではありません。ダンスを通じて人とつながるという側面を、このサイトはかなり直接的に扱っています。
A Perfect Follow――「フォローする側」からペアダンスを見る
What About Dance?「Dance Blogs」
海外には、特定のダンスだけでなく、ペアダンスについて自分の経験や考えを綴っているブログもあります。
「What About Dance?」では、そうしたダンスブログをいくつか紹介しています。その中に「A Perfect Follow」というブログがあります。
名前からも分かるように、フォローする側の視点から、Zouk、Bachata、West Coast Swing、Salsaなどのペアダンスについて書いています。
ペアダンスについて考えるとき、どうしても「どうリードするか」という話が中心になりがちです。
しかし、フォローする側から見れば、同じリードでも「分かりやすい」「分かりにくい」「動きやすい」「動きにくい」と感じ方が変わります。
「相手をどう動かすか」ではなく、「相手には何が伝わっているのか」という視点を持つことで、リードについても違った見方ができるようになります。
The Dancing Grapevine――技術だけでなく、ソーシャルダンスの文化を見る
What About Dance?「Dance Blogs」
同じくWhat About Dance?で紹介されているのが「The Dancing Grapevine」です。
Zouk、Salsa、West Coast Swing、Kizombaなど複数のペアダンスを扱いながら、技術だけではなく、ソーシャルダンスのエチケットやコミュニティについても取り上げています。
ソーシャルダンスは、ステップを覚えれば完成するものではありません。
誰と踊るのか。どのくらいの距離で踊るのか。相手の経験が自分より少なかったらどうするのか。自分と違う踊り方をする人とどう合わせるのか。
こうしたことも、実際に人と踊るためには関係してきます。
つまり、ダンスには「技術」と「文化」の両方があるということです。
Stanfordの「Everyone Is Different」――同じ相手はいない
Stanford Dance Division「Everyone Is Different」
Stanford Dance Divisionには、もう一つ興味深い考え方があります。
「Everyone Is Different」という記事では、ダンスパートナーは一人ひとり違うことを前提に、相手に合わせて踊ることについて説明しています。
身体の大きさ、経験、動き方、音楽の感じ方などは人によって違います。
そのため、ソーシャルダンスでは「自分がいつもやっている方法」を相手にそのまま当てはめるだけではうまくいかないことがあります。
相手が変われば、自分の動き方も少し変わる。
これは「相手に合わせて我慢する」という意味ではありません。二人で踊る以上、二人の身体や経験に合わせて、その場で踊り方を調整するということです。
こう考えると、ソーシャルダンスの面白さも見えてきます。
振付された同じ踊りを何度も再現するのとは違い、相手が変わるたびに少し違うダンスになるからです。
海外のサイトを見ていると、ダンスの見え方が変わってくる
今回紹介したサイトは、それぞれ扱っているものが違います。
Dance Spreeは、リード・フォローやコネクションを深く考えています。Stanfordは、パートナーシップ、失敗、相手との違いなど、ソーシャルダンスそのものについて考えています。Learn-to-Dance.netは、ペアダンスを一つの分野として整理しています。PartnerDancing.comは、さまざまなダンスに共通するコミュニケーションを探しています。
DancePartner.comは、ダンスを人との出会いとして見ることができます。A Perfect Followはフォロー側からペアダンスを考え、The Dancing Grapevineは技術だけでなくソーシャルダンスの文化にも目を向けています。
こうして見てみると、海外にも「ダンスの技を覚える」だけではない世界があることが分かります。
そして、こうしたサイトを読んでいると、普段は当たり前だと思っていることが疑問に変わってきます。
なぜリードするのか。
なぜフォローするのか。
なぜ相手に合わせるのか。
なぜ間違えても踊り続けられるのか。
なぜ知らない人と踊れるのか。
なぜ同じステップなのに、人によって踊り方が違って見えるのか。
ダンスについて考えるということは、ステップの名前や踊り方を覚えることだけではありません。
二人の身体がどうやって情報をやり取りしているのか。人と人がどうやって一緒に動くのか。そして、なぜ私たちは「誰かと踊ること」を楽しいと感じるのか。
海外のダンスサイトを眺めてみると、そんな「もう一つのダンスの世界」が見えてきます。
日本のダンスサイトを読むだけでは気づかなかった疑問が、海外のサイトを読むことで見つかることもあります。
ダンスを少し深く考えてみたい人には、こうしたサイトをのぞいてみるのも面白いかもしれません。