― 初心者の頭の中から考える、新しいレッスンの提案 ―
ペアダンスのレッスンというと、「難しそう」という印象を持つ人は少なくありません。
「右足を前に出して、左足を寄せて……」「姿勢はこうして、腕はこうして……」と、一つひとつ丁寧に説明されることが多く、先生も受講者も真剣な表情でレッスンが進んでいきます。
もちろん、細かい説明が必要な場面はあります。しかし、説明が増えれば増えるほど、初心者は頭の中がいっぱいになり、「難しい」「覚えられない」と感じてしまうこともあります。
私は、もっと楽しく、もっと記憶に残るレッスンの方法があってもよいのではないかと考えています。
その一つのアイデアが、「勘違いから始めるペアダンスレッスン」です。
初心者は、間違えようとしているわけではありません。先生の言葉を一生懸命理解し、自分がこれまでの人生で身につけてきた意味の中で、最も自然だと思う解釈をしています。
例えば、「男性がリードしてください。」と言われれば、「相手を引っ張ることかな。」と思う人がいても不思議ではありません。「力を抜いてください。」と言われれば、「力を全部抜けばいいのかな。」と考える人がいても自然なことです。
つまり、初心者の勘違いは、真面目に取り組んでいるからこそ生まれる、ごく自然な反応なのです。
だからこそ、その勘違いを「違います。」で終わらせるのではなく、「そう思いますよね。」と一度受け止めることに、大きな意味があるのではないでしょうか。
例えば、
先生「男性がリードしてください。」
初心者役(女性を力いっぱい引っ張る。)
先生「なるほど、そう考えますよね。でも、リードは力で引っ張ることではなく、相手に次の動きを伝えることなんです。」
あるいは、
先生「力を抜いてください。」
初心者役(全身の力を抜いて、その場にへたり込む。)
先生「そこまで抜かなくても大丈夫です。必要以上の力を使わない、という意味なんです。」
このように、初心者が考えそうなことを実演すると、「私もそう思っていた。」という共感が生まれます。そして、その直後に本来の意味を説明すると、言葉だけで説明するよりも印象に残りやすくなります。
ここで生まれる笑顔は、誰かを笑うものではありません。自分自身の勘違いに気付き、「なるほど、そういう意味だったのか。」と納得する中で自然に生まれるものです。その体験は、単に説明を聞くよりも記憶に残り、人にも話したくなるようなレッスンにつながるかもしれません。
このようなレッスンを行うためには、教える側にも少し違った視点が必要になります。
大切なのは、初心者の間違いを減らそうとすることだけではなく、「なぜ、そのように受け取ったのだろう。」と考えてみることです。
どんな言葉で迷ったのか。
どんな説明で勘違いが起きたのか。
どんな動きを「正しい」と思っていたのか。
こうしたことを日頃から観察していると、「この言葉は、初心者にはこう伝わりやすいんだ。」という気付きが少しずつ増えていきます。その気付きが、より分かりやすい説明や、共感を生む実演につながっていくのではないでしょうか。
社交ダンスでは、男性講師と女性講師の二人でレッスンを行うことも少なくありません。この特徴を生かせば、一人が先生役、もう一人が初心者役となり、初心者が感じそうな疑問や勘違いを実演しながら説明することもできます。ペアダンスだからこそ取り入れやすいレッスン方法の一つと言えるかもしれません。
もちろん、これが唯一の正解というわけではありません。もっと分かりやすい教え方や、もっと楽しいレッスンの形も、これから生まれてくるでしょう。
ただ、初心者に「正しい動き」を伝えるだけでなく、「初心者の頭の中」を出発点にしてレッスンを組み立ててみる。そんな教え方も、ペアダンスをより身近で、より楽しいものにする一つの可能性ではないかと感じています。