ダンスには、どんなスキルがあるのか

踊るために必要な力を、8つの領域から丁寧にひも解く

「ダンスが上手くなりたい」——そう思ったとき、私たちはまず何を練習すればよいのか、迷うことがあるかもしれません。振付を覚えること、音楽に合わせること、ステップを練習すること、身体を柔らかくすること。もちろん、そのどれもが大切な要素です。

けれども、ダンスを実際に遂行するために求められる能力は、それだけにとどまりません。自分の身体を細かくコントロールすること、さまざまな動きを実行できること、時間やリズムを扱うこと、動きの質を変えること、空間の中に身体を配置すること、他者や環境と関わりながら動くこと、振付を理解して覚えること、そして自分なりの表現を生み出すこと。実際に踊っているとき、これらの能力は一つひとつ切り離されているのではなく、同時に、そして重なり合いながら働いています。

そこでこの記事では、「ダンスを踊るために、何を練習すればよいのか」という視点からあらためて整理し、ダンスを遂行するために必要な能力を8つの領域に分けて、できるだけ丁寧にご紹介していきます。

なお、この分類は特定のダンスジャンルを区別したり優劣をつけたりするためのものではありません。また、既存のどれか一つの理論をそのまま当てはめたものでもありません。あくまで、

「ダンサーが、実際に踊るためには何ができる必要があるのか」

という素朴な問いから出発し、必要な能力を一つずつ整理し直したものです。ご自身の練習や指導の中で、「今、自分は何を鍛えているのか」を意識するための手がかりとして読んでいただければと思います。

1. 身体制御 —— 自分の身体をどれだけ精密に操れるか

自分の身体を感じ取り、意図どおりに扱うための土台となる能力です。

ダンスの最も基本にあるのは、自分の身体を感じ、必要な部分を必要なように動かし、そして動きを止めたりつないだりできることです。ここでいう身体制御とは、単に「身体能力が高い」ということを意味しているわけではありません。大きな動きができることだけでなく、細かな動きを区別できること、身体の各部分を協調させられること、姿勢や重心を保てること、力を状況に応じて調整できることなど、自分の身体を自分の意図に合わせて扱えるかどうかを指しています。以下では、その中身をさらに細かく見ていきます。

身体の各部分を独立して動かす

胸、肩、頭、腕、手、骨盤、脚など、身体の一部分に意識を向け、その部分だけを他の部分とは異なるように動かす能力です。例えば、肩だけを上下させながら骨盤を安定させる、胸を左右に動かしながら脚の位置を保つ、といった動きがこれにあたります。重要なのは、身体を無理に「バラバラ」に動かすことそのものではなく、どこを動かし、どこを動かさずにおくかを、自分自身で選び取れることにあります。

身体の各部分を協調させる

一方で、ダンスでは身体を一つにつなげて使うことも同じくらい必要です。脚を動かしながら腕を使う、身体を回しながら視線を変える、上半身を傾けながら脚で身体を支える、といった動きです。身体の各部分をそれぞれ別々に認識しながらも、それらを一つのまとまりとして動かせる力が求められます。

動きの起点をコントロールする

身体のどこから動きを始めるかによって、たとえ同じ動作であっても、見え方や印象は大きく変わります。胸が先に進み、その後に脚がついてくることもあれば、頭が先に動き、肩や身体がそれに続くこともあります。腕を先に動かして、そこから身体全体をその動きにつなげていくこともできます。つまり「何を動かすか」だけでなく、「どこから動きを生み出すか」もまた、身体制御の重要な一部なのです。

重心をコントロールする

身体の重さがどこにかかっているかを感じ取り、その位置を意図的に変えていく能力です。両足に均等に体重をかける、片足に移す、前へ移す、後ろへ戻す、回転のために重心をずらす——こうした一つひとつの操作が、さまざまな動きの基礎になっています。

バランスを保つ

立つ、片足になる、傾く、回る、跳ぶ、着地する。こうした動作を安定させる能力です。ただし、ここでいう「安定」は、身体を固く緊張させることではありません。必要なときには動きながらバランスを保ち、また必要なときにはあえて不安定な状態をつくり出せることも、この能力に含まれます。

姿勢を調整する

身体の向きや位置関係を整え、これから行う動きに適した状態を保つことです。姿勢というと「きれいに立つこと」だけを思い浮かべがちですが、それだけではありません。次の動作へ移るために姿勢を変えること、動きながら身体の位置関係を細かく調整し続けることも、姿勢の調整に含まれます。

身体の動かせる範囲を使う

関節や身体の各部分がどの程度動かせるか、その可動域もダンスに深く関わってきます。大きく腕を開く、小さく身体をまとめる、深く曲げる、高く伸びるなど、身体を使える範囲が広がるほど、動きの選択肢も自然と増えていきます。ただし、広い範囲で動かせることそのものだけが重要というわけではありません。自分が安全にコントロールできる範囲を正しく理解していることも、同じくらい大切です。

力を調整する

力を入れる、抜く、強くする、弱くする、という調整の力です。ダンスというと常に力を入れて踊るイメージを持たれることもありますが、必ずしもそうではありません。必要なところだけに力を使い、それ以外の部分では力を抑えることによって、かえってより細やかな動きが可能になります。

身体の連続性を保つ

一つの動きが突然途切れてしまうのではなく、身体の中を次の動きへと自然に伝わっていくことがあります。例えば、腕を動かした勢いが肩、胸、背中へと伝わり、さらに身体全体の移動へとつながっていくような動きです。これは「常に滑らかに踊らなければならない」という意味ではありません。あえて動きを鋭く切ることも、もちろん選択肢の一つです。大切なのは、動きを切ることもつなげることも、自分の意図で選べるということにあります。

2. 運動レパートリー —— どれだけ多様な身体運動を実行できるか

ダンスの土台となる、基本的な身体運動の引き出しの多さです。

ダンスには、歩く、走る、跳ぶ、回るといった大きな動きだけでなく、身体を伸ばす、曲げる、ねじる、傾ける、重心を移す、静止する、止まるなど、非常に多くの基本的な運動が含まれています。ここでは、これらを「ダンスの中で使うことのできる基本的な運動の種類」として、一つずつ丁寧に見ていきます。

伸びる・伸ばす

身体を長くしたり、手足を遠くへ伸ばしたり、身体全体を広げたりする動きです。腕だけを伸ばすというシンプルな形もあれば、胸から身体全体が上へ引っ張られるように大きく伸びる、というダイナミックな形もあります。

曲げる

膝、肘、背中、腰などを曲げて、身体の形そのものを変えていく動きです。身体を小さくまとめることもできますし、曲げた状態のまま移動していくこともできます。

跳ぶ

床から身体が離れる動きです。跳ぶ前の準備、空中での身体の形、そして着地までの一連の流れを含めて、一つのまとまった運動として捉えることができます。

回る

身体の向きや位置を回転によって変えていく動きです。その場で回ることもできますし、空間の中を移動しながら回ることもできます。

傾く

身体を前後左右などへ傾けていく動きです。ほんの少しだけ傾くこともあれば、大きく身体を倒すように傾くこともあります。

移動する

身体の位置そのものを変えていくことです。歩く、走る、滑る、跳ぶなど、その方法は非常に多くあります。移動を考えるときには、「どこへ行くか」というゴールだけでなく、「どのようにそこへ行くか」という過程の質もまた重要な要素になります。

重心を移す

右から左へ、前から後ろへ、両足から片足へと、身体の重さがかかる場所を変えていく動きです。これは、多くの移動や方向転換を支える土台になっています。

身振りを使う

手、腕、頭、顔、視線などを使って、何かを示したり、誰かに何かを伝えたりする動きです。日常的な身振りをそのままダンスの中に取り入れることもできますし、その意味を抽象化して、より表現的なものへと発展させることもできます。

静止する

動かないでいることも、ダンスにとって重要な運動要素の一つです。静止している間にも、姿勢、呼吸、視線、そして次の動きへの準備が、絶えず続いています。

動きを停止する

それまで動いていた身体を、ある瞬間に止めることです。時間をかけてゆっくりと止まることもできますし、勢いのまま突然止まることもできます。

バランスを崩す

あえて身体を不安定な状態へと持っていき、その勢いや崩れそのものを次の動きへとつなげていくことです。これは「転ぶ」という意味ではありません。倒れそうになる力をむしろ利用して、そこから新たな動きを生み出していくことも、ダンスにおける重要な可能性の一つです。

3. 時間調整 —— 動きを時間やリズムにどう合わせるか

「いつ動くか」「どれだけの時間をかけるか」を扱う力です。

身体を動かすことができるだけでは、まだダンスのすべてが完成するわけではありません。「いつ動くのか」「どのくらいの時間をかけるのか」「どのタイミングで止まるのか」といった、時間の扱い方もまた欠かせない要素です。

拍を感じる

音楽の中で規則的に感じられる時間の流れを、身体で感じ取ることです。足で拍を取ることだけが方法ではありません。身体の揺れ、呼吸、重心の移動などを通して、時間の流れを感じ取ることもできます。

リズムを扱う

音の長さや強さ、繰り返しといった要素を、身体の動きへと結びつけていくことです。音楽のリズムをそのまま動きに変換することもできますし、あえてリズムを変化させて、独自の表現として扱うこともできます。

タイミングを選ぶ

動きをいつ始め、いつ変化させ、いつ終えるかを、自分で選び取ることです。音と完全に同時に動くこともできますし、音より少し前に動く、あるいは少し遅れて動く、という選び方もできます。

テンポを変える

動き全体の速さそのものを変えていくことです。速く動く、ゆっくり動く、途中から速くなる、徐々に遅くなっていく——こうした速度の変化によって、同じ動きでも受ける印象は大きく変わります。

持続時間を変える

一つの動きをどのくらいの時間続けるか、その長さを変えていくことです。短い動作と、長く続く動作とを組み合わせることによって、時間の対比という新たな表現が生まれます。

間をつくる

動きと動きのあいだに、あえて余白をつくることです。少し待つ、一瞬止まる、次の動きをわずかに遅らせる——こうした間の使い方によって、前後の動きをより強く印象づけることができます。

反復する

同じ動きやパターンを繰り返していくことです。まったく同じ形をそのまま繰り返すこともできますし、少しずつ形を変化させながら繰り返していくこともできます。反復は、音楽との関係性をつくり出したり、特定の動きを観客や自分自身に強く印象づけたりするためにも使われます。

同期する

他者や音楽、あるいは周囲の動きなどと、タイミングを合わせていくことです。全員が完全に同じタイミングで動くことだけが同期ではありません。身体の一部分だけを合わせる、ある一瞬のタイミングだけを合わせるなど、その方法は多岐にわたります。

速度を変化させる

一つの動作の中で、速度そのものを変えていくことです。最初はゆっくりと始め、途中から急に速くする。あるいは、速く動いた直後に突然遅くする。こうした速度の変化によって、動きの中に予測できない展開や、緊張感を生み出すことができます。

4. 動作品質 —— 動きにどのような質やニュアンスを与えるか

「何をしたか」ではなく「どう動いたか」を扱う領域です。

この領域は、「何をしたか」と「どう動いたか」とを分けて考えるためのものです。例えば「腕を上げる」という動作は、動作としては同じでも、強く上げる、軽く上げる、急に上げる、時間をかけて上げる、鋭く上げる、柔らかく上げるなど、無数の違いをつくり出すことができます。つまり動作品質とは、「何をしたか」ではなく「どのように動いたか」を扱う能力なのです。

力の強弱

強い力を使うことと、弱い力で動くことの違いです。小さな動きであっても、力を一点に集中させれば強い印象になりますし、逆に大きな動きであっても、力を抑えることで軽やかな印象に仕上げることができます。

重さと軽さ

身体や動きに「重さ」を感じさせることと、「軽さ」を感じさせることの違いです。重心を下へ預けるように動く、床との関係を強く感じさせるなど、重さを感じさせる動きがある一方で、身体がまるで浮いているように見える軽い動きもあります。これは実際の体重が変化するという意味ではなく、あくまで動きから受け取られる印象の違いを指しています。

緊張と解放

身体をしっかりと制御して動くことと、力を解き放って動きを流すことの違いです。あえて緊張を高めていき、ある瞬間に一気に解放する、という組み合わせ方も可能です。

急激さと持続性

一瞬で動きを変えることと、長い時間をかけてゆっくりと変化させていくことの違いです。急激な変化は鋭さや驚きを生み出し、逆に持続する動きは、時間の流れや余韻を感じさせます。

直接性と柔軟性

目的とする方向へ、迷いなくまっすぐに進んでいくような動きと、途中で曲線を描いたり、方向を変えたりしながら進む柔軟な動きとの違いです。

鋭さと滑らかさ

動きの輪郭をはっきりとさせることと、動きを途切れさせずに一つにつなげていくことの違いです。鋭い動きは動きの変化を明確にし、滑らかな動きは、一つの動作から次の動作へと連続して流れていくような印象をつくり出します。

安定と不安定

身体を安定させて動くことと、あえて不安定な状態を利用することとの違いです。不安定さは失敗を意味するものではありません。むしろ意図的に用いることで、緊張感、危うさ、勢い、そして予測できなさといった要素を表現することができます。

抑制と自由

動きを細かく制御することと、ある程度の制約を外して動きを大きく広げていくこととの違いです。どちらか一方が優れているというわけではなく、むしろ抑えることができるからこそ、後で解き放つことにも意味が生まれます。

5. 空間適応 —— 身体と動きを空間にどう配置するか

身体だけでなく、身体を取り巻く空間との関係を扱う力です。

ダンスでは、身体そのものの動きだけを見ていても分からないことがあります。身体は今どこにあるのか。どこへ向かおうとしているのか。どのような道筋をたどっているのか。周囲の人とどれくらいの距離を保っているのか。そして、空間全体をどれくらい大きく使っているのか——こうした空間との関係を扱う能力が、この空間適応です。

方向

前、後ろ、左右、斜め、上、下など、身体が向かっていく方向を選ぶことです。身体の向きと実際に移動していく方向を一致させることもできますし、あえて異なる方向へ向けることもできます。

高さ

床に近い低い位置、中間の高さ、立った状態、あるいは高く跳んだ位置など、身体が存在する高さそのものを変えていくことです。まったく同じ動作であっても、高さが変わるだけで印象はまったく違ったものになります。

距離

他者や物、あるいは自分自身の身体の各部分との間の距離を扱うことです。近づく、離れる、一定の距離を保つ——こうした距離の取り方そのものが、一つの表現になります。

軌跡

身体が動いたときに、空間の中に描いていく道筋のことです。直線、曲線、円、折れ曲がる線など、実にさまざまな軌跡が存在します。

移動経路

空間の中を、どのような順番や道筋で進んでいくかということです。まっすぐに進む、大きく回り込む、途中で方向を変える、同じ場所を繰り返し通る、といった選び方があります。

空間的な形

身体の姿勢や移動によって、空間そのものに一つの形を感じさせることです。身体を大きく広げる、小さくまとめる、あるいは自分の身体の周囲に独自の空間をつくり出す、といった形があります。

広がり

身体や動きが、どれくらい広い空間へと展開していくかということです。腕を大きく広げるという部分的な広がりだけでなく、身体全体を使って空間へと広がっていくこともできます。

収束

それまで広がっていた身体や動きが、ある一点、あるいは身体の中心へと集まっていくことです。広がりと収束とを組み合わせることによって、空間の使い方に大きな変化とメリハリをつくり出すことができます。

空間へ動きを向ける

身体の動きや意識を、自分の身体のすぐ近くにとどめておくのではなく、遠くの空間へと向かわせていくことです。実際に大きく移動するわけではなくても、視線や手、胸などを通して、空間へ向けて動きを投げかけるような表現が可能です。

空間を変化させる

同じ場所にとどまっていても、身体の向き、高さ、距離、広がりなどを変えることによって、空間そのものの印象は変化していきます。また、一人から複数人へ、狭い場所から広い場所へというように、周囲の状況そのものが変わっていく場合もあります。

周囲との位置関係

自分が空間のどこにいて、他者や物がどこにあるのかを、正確に把握することです。特に複数人で踊る場合には重要度が増し、隣の人との距離、前後左右の位置関係、そして全体の配置を、同時に意識し続ける必要があります。

6. 相互作用 —— 他者や環境とどう関わりながら動くか

相手や環境の存在によって、自分の動きがどう変わるかを扱う力です。

ダンスは一人で行うこともできます。しかし、誰かと一緒に踊るとき、相手の存在そのものが、自分の動きを大きく変えていきます。さらにダンスでは、人と人との関わりだけでなく、床、壁、椅子、道具、舞台、周囲の空間といった環境との関係もまた、非常に重要な意味を持ちます。

他者の存在に気づく

相手がどこにいるのか、どの方向へ動いているのか、どれくらい近くにいるのかを感じ取ることです。必ずしも相手を直接見なければならないわけではなく、視界の外にいる相手の位置を、感覚として感じながら動くこともできます。

相手を意識しない

あえて他者との関係をつくらず、自分自身の動きに集中することも、一つの選択です。これは単に「相手に気づかない」という意味だけでなく、相手がそこにいることを知ったうえで、あえて直接的な関係をつくらないという、意図的な選択も含まれます。

接近する

相手との距離を縮めていくことです。実際に触れなくても、近づくというその行為だけで、二人の関係性は変化します。近づいていく速さ、方向、どこまで近づくかによって、伝わる印象も変わってきます。

距離を調整する

近づくだけでなく、離れる、一定の距離を保つ、あるいは距離を急に変える、といったように、相手との間隔を意図的に扱っていくことです。

接触する

身体と身体、あるいは身体と物とが触れ合うことです。触れる場所、その強さ、触れている時間、そして触れた後の動き方によって、伝わる意味や感覚は大きく変わってきます。

支える・支えられる

相手の身体を支えたり、逆に相手に自分の身体を預けたりすることです。ここには単なる筋力だけでなく、重心、姿勢、タイミング、相手の動きを予測する力、そして相手への信頼といった要素が複雑に関係しています。

持ち上げる・持ち上げられる

相手の身体を床から持ち上げたり、逆に相手に自分を持ち上げてもらったりすることです。これは単純な力比べではありません。身体のどこを支えるか、重心をどこに置くか、そしてタイミングをどう合わせるかを、二人で協調させながら行う必要があります。

囲む

相手の周囲に、自分の身体や動きによって空間的な境界をつくり出すことです。相手に触れずに囲むこともできますし、実際に触れながら囲むこともできます。

協調する

相手の動きを感じ取りながら、自分の動きをそれに合わせたり、補い合ったりすることです。完全に同じ動きをする必要はありません。まったく異なる動きをしながらも、タイミングや空間的な関係だけを合わせるということも、立派な協調の一つです。

同期する

複数の人が、同じタイミングで動いていくことです。ただし同期とは、「全員がまったく同じ動きをすること」だけを指すわけではありません。ある部分だけを合わせる、特定の一瞬だけを合わせるなど、その形は実に多様です。

相手に反応する

相手の動きを見たり、あるいは気配として感じ取ったりして、それに応じて自分の動きを変えていくことです。相手が速くなったら自分も速くなる、相手が止まったら自分も止まる、あるいは相手とはあえて逆の動きを選ぶなど、反応の仕方には多くのバリエーションがあります。

環境と関わる

床を押す、壁に身体を預ける、道具を使う、狭い場所を通り抜ける、障害物を避ける——こうした環境との関係も、ダンスの重要な一部です。ダンサーは単に「空間の中で動いている」だけの存在ではありません。環境から影響を受けながら、同時にその環境へ働きかけていく存在として動くことができます。

7. 振付理解 —— 動きの情報を理解し、記憶し、再現する

見た動きを理解し、自分の身体に落とし込むための力です。

ダンスを学ぶ過程では、誰かの動きを見て、それを自分自身の身体で再現するという場面が数多くあります。そのためには、単なる記憶力だけでなく、動きそのものを理解する力が欠かせません。

観察する

身体の形、方向、順番、速さ、タイミングなどを、注意深く見て取る力です。「腕が上がった」ということだけを捉えるのではなく、「どの方向へ、どのくらいの速さで、どのようなタイミングで上がったのか」まで、細かく捉える必要があります。

模倣する

見た動きを、自分自身の身体で再現していくことです。単に外側の形を真似るだけでなく、動きの大きさ、タイミング、力の使い方といった内側の要素まで再現することが、ここには含まれます。

記憶する

動きの順番、方向、身体の使い方、そして音との関係などを、頭と身体の両方で覚えておくことです。

順序を理解する

「次に何をするのか」を理解する力です。振付を覚える際には、一つひとつの動作を個別に覚えるだけでなく、それらがどのような順番でつながっているのかを、全体として把握する必要があります。

パターンを認識する

動きの中に含まれる繰り返しや規則性を見つけ出す力です。例えば「同じ動きが反対方向でもう一度出てくる」「四つの動きで一つのまとまりになっている」といった構造を理解できるようになると、複雑な振付であっても格段に覚えやすくなります。

空間配置を記憶する

自分がどこに立っていたのか、どこへ移動したのか、そして他の人とどのような位置関係にあったのかを覚えておくことです。一人で踊る場合はもちろん、集団で踊る場合には、特に重要な意味を持ちます。

音との対応関係を理解する

どの動きが、どの音や拍と対応しているのかを理解することです。「この音で動く」「この拍で止まる」「このリズムの中で三つの動きをする」といったように、音と身体の関係を正確に把握していきます。

修正する

先生や仲間からの指摘、あるいは自分自身の感覚をもとにして、動きを変えていく力です。「もっと小さく」「少し遅く」「重心を前へ」といった言葉として受け取った情報を、実際の身体の動きへと変換していく必要があります。

新しい動きを習得する

これまで経験したことのない動きを理解し、自分自身の身体で使えるようにしていく力です。最初のうちは意識しなければできなかった動きも、練習を積み重ねる中で、やがて自然に行えるようになっていきます。

状況に適応する

たとえ振付をしっかりと覚えていたとしても、実際の現場では思っていたとおりにいかないことがあります。舞台の広さがいつもと違う、相手との距離が変わる、音楽の速さが変わる、周囲の人の動きが少し遅れる——こうしたさまざまな状況の変化に応じて、自分自身の動きを柔軟に調整できることもまた、ダンスを実際の場で遂行するうえで非常に重要な能力です。

8. 表現・創発 —— 動きを意味ある表現へ発展させる

決められた動きを、自分自身の表現へと育てていく力です。

最後の領域は、ダンスを「自分自身の表現」へと発展させていく能力です。ここでは、決められた動きを正確に再現することだけを考えるのではなく、その動きをどのように感じ、どのような意図をもって使い、どのように変化させ、そこからどのように新しい動きを生み出していくかを考えていきます。

意図を持つ

「ここを見せたい」「この音を感じたい」「静かな感じを出したい」というように、自分なりの目的をもって動くことです。

感情を表す

喜び、緊張、静けさ、力強さ、寂しさ、開放感など、さまざまな感覚を身体の動きへと反映させていくことです。ただし、特定の感情には特定の動きが必ず対応するというわけではありません。まったく同じ動きであっても、動きの質やタイミング、そして視線の使い方によって、まったく異なる印象をつくり出すことができます。

音楽へ反応する

音楽を単に「数える」対象として扱うのではなく、音の変化、強弱、旋律、間、雰囲気といった要素を身体で感じ取り、それに応じて自分の動きを変化させていくことです。

ニュアンスをつくる

同じ動作の中に、微妙な違いを加えていくことです。ほんの少しだけタイミングを遅らせる、力をわずかに抜く、視線だけを変える、動きを途中でわずかにためる——こうした小さな違いの積み重ねが、踊り手一人ひとりの個性や表現につながっていきます。

個性を表す

まったく同じ振付を踊っていても、踊る人によって見え方が違ってくることがあります。身体的な特徴だけでなく、動きの選び方、力の使い方、音楽との向き合い方、視線、間の取り方などによって、その人らしさが自然とにじみ出てきます。

自分のスタイルをつくる

繰り返し踊っていく中で、自分が自然に選んでしまう動き方や質感というものが、少しずつ生まれてきます。それが積み重なっていくことによって、やがて「この人らしい踊り方」というスタイルが形成されていきます。スタイルとは最初から意図して決めるものではなく、経験と選択の積み重ねによって、時間をかけて育っていくものでもあります。

即興する

あらかじめ決められた振付ではなく、その場で音楽、相手、空間、自分自身の感覚などに反応しながら、動きを選び取っていくことです。即興というと「何も考えずに自由に動くこと」だと思われがちですが、実際にはそうではありません。その瞬間ごとの状況を感じ取り、選び、動き、そしてその結果に反応して、また次の動きを選んでいくという、連続した判断の積み重ねなのです。

変化させる

一つの動きを大きくする、小さくする、速くする、遅くする、方向を変える、質を変えるというように、すでにある動きを変形させていくことです。

動きを創作する

まったく新しい動きをつくり出していくことです。ただし創作とは、「誰も見たことがない動きをゼロから生み出すこと」だけを意味するわけではありません。すでに知っている動きを組み合わせる、順番を入れ替える、方向を変える、時間の使い方を変える、質を変える、といったように、既存の要素を新しい関係の中で組み合わせ直していくこともまた、立派な創作です。

状況に応じて表現を変える

まったく同じ動きであっても、舞台、音楽、相手、観客、空間などが変われば、その場にふさわしい表現もまた変わってきます。その時々の状況を的確に読み取り、その場に最も適した動きを選び取っていけることもまた、表現する力の重要な一部です。

まとめ. 8つの領域は、それぞれ独立しているわけではない

ここまで8つの領域を一つずつ分けてご紹介してきましたが、実際のダンスの中では、これらの能力が一つずつ順番に現れて使われるわけではありません。すべてが同時に、絡み合いながら働いています。

例えば「回る」という、たった一つの動きを考えてみましょう。身体の軸を保つ。重心を移す。必要な身体の部分を協調させる。回るタイミングを選ぶ。回転の速さを調整する。どの方向を向くかを判断する。空間の中でどこへ移動するかを把握する。そして、音楽や周囲の人の動きに合わせて、自分の動きを変えていく。一つの「回る」という動作の中に、すでにこれだけ多くの能力が同時に働いているのです。

「跳ぶ」という動作の場合も同じです。身体を協調させ、重心を移し、力を使い、タイミングを合わせ、空間的な高さを変化させ、着地をコントロールする。さらに、それを音楽に合わせたり、他者と同期させたり、自分自身の表現として使ったりすることもできます。

だからこそ、ダンスのスキルというものは、「これが一つできれば完成」というものではありません。一つひとつの能力を丁寧に身につけ、それらを状況に応じて自在に組み合わせて使えるようになっていくこと。そこにこそ、ダンスを実際に遂行していく力があるのです。

自分の現在地を知る

ここまでの内容を読んで、「自分は何が得意なのだろう」「どこをもっと経験していけばよいのだろう」と感じた方は、最後に簡単な自己評価をしてみるのもよいかもしれません。

例えば、それぞれの能力について、0から5までの数字をつけてみます。

0まだ経験がない
1少し経験がある
2意識すればできる
3ある程度自然にできる
4安定して使える
5自由に応用できる

この数字は、ダンスの上手・下手を決めるための点数ではありません。「自分には才能があるかどうか」「他の人より優れているかどうか」を判定するためのものでもありません。今の自分がどの能力をすでに使えていて、どの能力をこれから経験し、育てていけばよいのかを知るための、いわば地図のようなものです。

例えば、身体のコントロールは得意だけれど、空間を使うことはまだ苦手かもしれません。振付を覚えることは得意だけれど、即興はまだあまり経験がないかもしれません。リズムには乗れるけれど、動きの質を変えるということはあまり意識してこなかったかもしれません。それで構わないのです。

ダンスの上達とは、すべての能力を同じように、均等に高めていくことではありません。自分の得意なところをさらに伸ばし、苦手なところを正しく知り、必要な能力を少しずつ増やしながら、やがてそれらを自由に組み合わせていけるようになること。それこそが、自分自身のダンスを広げていくことにつながっていきます。

ダンスを始めるということ

ダンスを始めるにあたって、「まず振付を覚えなくてはいけない」と身構える必要はありません。

  • 身体の一部分を意識してみる
  • 身体を伸ばしたり曲げたりしてみる
  • 重心を左右に移してみる
  • 一歩移動して止まってみる
  • 同じ動きを速くしたり遅くしたりしてみる
  • 動きの強さや重さを変えてみる
  • 空間の中で方向や距離を変えてみる
  • 誰かの動きを感じながら動いてみる
  • そして、最後には、自分で動きを選んでみる

こうして一つひとつを見ていくと、ダンスは特別な才能を持った人だけができるものではなく、人間が生まれながらに持っている身体、時間、空間、他者との関係、そして想像する力を使って行う、ごく自然な活動であることが分かってきます。

ダンスの技能を学ぶということは、単に難しい技をたくさん増やしていくことではありません。自分の身体で何ができるのかを知り、できることを少しずつ増やし、それらを組み合わせ、状況に応じて選び取り、そして最後には、それらを自分なりの表現へと発展させていくこと。

それが、「踊る」ということなのです。